首里の香り Vol.35 雨がつくるやさしい距離

やんばるの森に伊集の花が咲き、爽やかで甘い香りが広がるころ、沖縄では梅雨を迎える。

ある雨の日、息子と車に乗っていたときのこと。
「撮っていい？」とスマホを手にした彼は、窓の外ににじむ風景を夢中で撮っていた。

雨粒がアスファルトを静かにたたき、世界をやわらかく包み込む。
滲んだ光、ゆっくり走る車のテールランプ。
雨の日は、いつもの景色が少し違って見える。

この情景に特別な何かを感じられる、その感性がうれしくて、思わず信号待ちの間にそっと彼の横顔を眺めてしまった。
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情報の波が絶え間なく押し寄せるこの時代、「つながること」に少し疲れてしまうことがある。
でも、雨の日は、そんな日常からふっと距離をとらせてくれる。
どこかで無理していた心が、雨音にゆっくりほどけていくような気がする。

それでいて、雨は不思議だ。
息子と私のように、人と人との距離をそっと近づけてくれる存在でもある。

車の中で流れるラジオから、見ず知らずの誰かの投稿に、ふっと笑ったり、妙に心がほどけたり。
顔も名前も知らないけれど、こんなふうにつながる感じって、なんだかちょうどいい。
そんなやわらかな関係が、雨の日には心にしみる。

今度また、息子とドライブに出かけよう。
今時期のやんばるには、伊集の花が綺麗に咲いているだろうなぁ。

雨がくれる、ちょうどいい静けさと、
やさしい距離を確かめながら。

首里石鹸大城なつき