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<おしらせ>
今月より新しいライターさんをお迎えして「首里散歩」をお届けいたします。
沖縄の風景を散歩するようにコラムを読みすすめる中で、心ほぐれるひと時をお過ごしいただけますように。
首里石鹸 編集部より
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「ねぇ、お母さん、ファーマーズマーケットに行くんだけど、一緒にどう?」
ある夏の日、家族でビーチへ向かう道中、そう長男に声を掛けた。
まだ幼い次男と三男は海で遊んだり、ビーチでヤドカリと戯れたりとやんちゃ盛り。一方、長男はどちらかと言えば「綺麗な海を眺めていたい」という年頃になっていた。
そんな彼は、私の誘いに「いいよ、行く行く。」と快諾してくれた。
次男と三男、そして主人をビーチに残し、再び車に乗り込む。
両側にエメラルドブルーの海を抱えて浜比嘉大橋を渡る。
ふと、「さぁ、今の気分はどんな?何か歌って!」と彼に無茶なお願いをしてみた。
「えーっ…?」
戸惑いながらも笑いを含んだ返事に、私はすかさず、思いついた歌を口ずさんだ。やがて彼も私の歌声に、いつしか低くなった声を重ねて一緒に歌い始めた。運転中で表情は見えなかったが、彼の声色から笑顔が伝わり、二人の空気が柔らかくなるのを感じ嬉しく思う。
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目的地のファーマーズマーケットに到着。
沖縄県産の野菜やフルーツをはじめ、月桃の葉に包まれたじゅーしーやポーポー、紅芋の焼き芋など、沖縄ならではの食文化が並ぶ。一緒に散策していると、彼は店内の一角にある揚げ物屋の前で足を止めた。
「この沖縄県産の椎茸の天ぷら、美味しそうだな。それと、このタームパイ。」
天ぷらをじっと見つめている姿に、まだまだ可愛らしいなと心が和み、
「揚げたてだって。いい香りがするね。せっかくだから食べながら戻ろうか。」と声を掛ける。
買い物を満喫し、主人たちが待つビーチへ向かった。最近は勉強や部活動で忙しく、ゆっくり会話をする余裕もない長男と私。久しぶりの二人の時間は、とてもとても貴重だった。
車内で揚げたての天ぷらを頬張りながら、彼は「楽しかったな。」と呟いた。その言葉が嬉しくて、「何が楽しかったの?」と聞くと、彼は「…まぁ、いろいろ。」と海の向こうを眺めながら、そう言った。
今の長男なりに「いろいろ」感じ取ってくれていたら、それでいいと思った。
その日の夕方、SNSで近所の美味しいと評判のごはん屋さんを見つけた私は、再び長男を誘い出かけた。外に出ると、見たこともない幻想的な夕焼けが空一面を染めていた。
彼は「凄いな…自然のアートだね。」と微笑みながら静かに囁やいた。
茜色に染まった長男の横顔を見上げ、「いつの間に、こんなに大きくなっちゃったのかな。」と何だか嬉しいような、何だか心にぽっかりと穴が空いたような、そんな感情が込み上げた。
少年が青年の顔をのぞかせた、ちょっと切ないあの夏の日だった。
ライター
YUKAHA