トンネルを超えた後、天空を進むような景色に、グッと息を呑んだ。
その橋は、『ニライカナイ橋』というらしい。
ニライカナイとは、海の彼方を意味する沖縄の方言で、自然からの恩恵を下さる神様のいる理想郷だという。
はじめてあの光景を見た時から、何度も何度もあの瞬間を思い出している。
通り抜けた海辺では、緩やかなカーブを感じる水平線がいつもよりも優しくて、振り返ると、さっき通ってきた『ニライカナイ橋』が悠然と見下ろしている。しばらく言葉も交わさないまま、その恩恵をたっぷり受け取った。
沖縄に来て間もない頃に訪れた、紅型と芭蕉布や芭蕉紙の工房のご夫婦と何かとご縁があり、6年前に、そのお嬢さんのパナマ帽の展示会に訪れた。
全行程を一人で手がけるお父様の芭蕉布の技術を、今のファッションで使えないかと考える中で単身エクアドルに飛び、現地の職人さんたちとの細かい工程ややりとりが伺える鮮やかな写真と共に、豊かな感性で表現された帽子たちが並んでいた。
自由に手にとってかぶるようにと勧められた帽子の、密集した網目の温かさが、ご両親の作品の彩りや素材感と重なり、心が熱くなった。はしゃぐ息子に、いつかこの想いを伝えたいと、シャッターを押したのが昨日のことのようだ。
そして、沖縄に移住して10年の節目の年に、再びパナマ帽の展示販売会が開催されると聞き、はやる気持ちをおさえつつ足を運んだ。
手仕事の豊かさ、作り手さんの想い、想いが通じ合う人との交流、家庭を持たれたお嬢さんのさらなる進化と、今回もさらに生き方を考えさせられる、深く充実した時間となった。
日々、大自然の恩恵を感じながらも、まだそこから何かを生み出すような段階には近づくこともできていない。
どうやって自然の恩恵への感謝を伝えていこう。
あの、ニライカナイを感じた瞬間を、何度も思い出しながら、とても緩やかに、心で呼吸するように、考えながら過ごしている。
ライター
首里石鹸 白鳥恵子