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首里散歩 Vol.232 灯った明かり

少し動くとジワジワ暑かった記憶が、突然消えてしまったように、肌寒い空気がやってきた。

「冬服がほとんどない」
「最近寒いなって思ってるうちに冬が終わる」
移住した当時、沖縄にすでに何十年も住んでいた従兄弟がそう言っていたけれど、9年目の今、その言葉に深くうなずいている。

クーラー対策の防寒グッズで誤魔化しているうちに、また暑くならないかしら。

寒さにはめっぽう弱いので、今年もまだ、沖縄の底力のぶり返しの暑さを願っている。

そんなことを言いながら、私は暑くない時期の沖縄も大好き、と毎年再確認する。

どの景色も色彩のトーンが落ちて、味わい深く懐かしい感じになるのが、愛しい季節なのだ。

先日、いつもの『猫散歩』の時、向こうから一人の女性が、同じ猫たちに同じように携帯のカメラを向けていた。

笑顔で会釈すると、「ね…こ?」と呟いて、はにかんでいる。外国の方のようだったので、慌てて頭の中のレバーを早回ししてなんとか、どこから来たのかを英語で尋ねると、香港からだと言うので、母と顔を見合わせてびっくり!

そこからは母も私も、急に香港にいた頃のように気楽なコミュニケーションの英語で、昔、香港に住んでいたことや、私が香港で生まれたことなどを伝えて、彼女の住んでいる地域が、母の持っているゴルフ場の近くだとか、ローカルな話で盛り上がった。

記憶にある広東(カントン)語で通じ合えたり、頭の片隅にも残っていなかったような地域の名前が、母からも私からも次々と出てきたことに驚いた!

学生さんかと尋ねると、彼女はまた、はにかんでいる。
彼女は27歳で、コンサートに参加するために、仕事の休みをとって、初めて日本に一人で来たという!

聞き覚えのある歌手のTシャツを着ていた。彼女の行動力の源となったエンタメの力に、しばし立ち尽くした。

最後に、ファーストネームを教え合ったら、彼女は「ケイトゥ」で、私は「恵子」で、不思議な心地よさのまま、名残惜しく手を振った。

秋も深まる景色の中で通じ合えた偶然が、おそらくずっと忘れられない、懐かしい明かりを灯したような時間になった。

ライター
首里石鹸 白鳥恵子