「私にとって琉装は、着るタイムトラベルなんです。」
そう話してくれたのは、那覇市牧志で、沖縄の染め織り物や衣類の製造販売、琉球の文化講座、琉装体験(レンタル)を行う「沖縄琉装苑(おきなわりゅうそうえん)」を営む石川 真理(いしかわ まり)さん。
戦後、牧志一丁目(現在の国際通り)で「洋裁店」を切り盛りしていたお母様のもとで育ち、「将来は母のようなデザイナーになるのが当たり前だと思っていましたね。」と話す真理さんは、首里高等学校染織デザイン科を経て京都に進学、劇団四季の衣装部や、江戸小紋工房など、多彩な場所で活躍しました。
「当時は沖縄に戻ろうと言う気持ちは、全く無かった。」と話す真理さんですが、行く先々で自分のルーツである “ 沖縄 ” を強く意識する出来事に度々遭遇するようになり、今から21年前の2004年に沖縄琉装苑を立ち上げました。
「最近では、これ(今のお仕事)って、神様から与えられた使命なのかもな~と思ってるよ!」と、笑顔で話す真理さんに、これまでの歩みとこれからについてをお聞きしました。
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石川 真理(いしかわ まり)さん
沖縄県で生まれ育ち、高校で染色を学ぶ、京都の短大を経て劇団四季の衣装部に就職。その後は江戸小紋の工房に務めるなどして活躍し、2004年に、那覇市久茂地に「沖縄琉装苑」をオープン。沖縄の染め織り物の衣類の製造販売を行い、琉球の文化講座を開催する裏には、”沖縄の良いものをもっと知ってもらいたい!”という熱い思いがある。また、ご自身でデザインした衣装の数々は、初めて琉装を体験する方でも気軽に挑戦しやすいようにと、涼しく、かつ着やすさを考えられて作られており、沖縄の青い空や色彩鮮やかな自然の中でも映えるものをとこだわって作られている。
(※公式サイトの情報はページ下記に記載。)
様々な素材にふれた幼少期
真理さん 物心付いたときから母のお店に来ていたので、シルク100%のレースや高価な舶来品(はくらいひん)の生地など、様々な素材を触らせてもらいました。
余った生地を使って手縫いで何かを作ったり、母や縫製スタッフの真似をして足踏みミシンを触って壊したりと、自分で何でもやりたがる好奇心旺盛な子どもだったのですが、母に怒られたことは一度も無かったですね。
今考えると、子どもの“やりたい!”という気持ちを理解し、できる限りやりたいことはやらせてあげようという、母の思いがあったのだと思います。
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▲ 写真:左から石川光子さん(お母様)、石川真理さん(当時 6ヵ月)
はじめて「紅型」や「琉装」にふれた高校時代
── 幼少期からお母様の影響でデザイナーを目指していた真理さんですが、「紅型」や「琉装」と出会うキッカケは何だったのでしょうか?
…
真理さん 父の勧めで進学した首里高等学校で、染織デザイン科に入ったことですね。恥ずかしながらそれまでは「紅型」や「琉装」について、本当に何も知りませんでした。ですが、いざ染織デザイン科に入ると、私と2歳しか変わらない先輩方が、自分で染めた紅型や首里織で、すごく立派な着物を作っているのを目の当たりにして、本当に驚きました。
さらに、授業の一環で、型絵染の人間国宝である「鎌倉 芳太郎(かまくら よしたろう)」さん※1の事を知るとともに、「あなた達が今紅型を見られているのは、それを“ 沖縄の宝 ”だと認識して、次世代に伝えよう。技術を取り戻そう。と頑張った方々がいたからだよ。」と先生に言われました。
県外出身の方がこんなに沖縄の芸術や文化を愛してくれて、それを守り、次世代につなげてくれていたことに感銘を受けると共に、そのことを全く知らなかったことに大きな衝撃を受けました。
いまでも「琉装」を通して沖縄の歴史や文化を調べているのですが、知れば知るほど学びになることが本当に多くて、これは私の一生をかけて続けていくライフワークなのだと思っています。
※1 鎌倉 芳太郎(かまくら よしたろう)。香川県に生まれ、教師として赴任した沖縄で、琉球・沖縄の芸術・文化に魅了され、生涯を沖縄研究に捧げ、「型絵染」で重要無形文化財保持者(人間国宝)にも認定された人物。
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▲ ▼ 写真:沖縄の歴史や伝統・文化、そして琉装のことなど、わかりやすく教えてくれる。
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▲ 写真:ドゥジン(胴衣)とカカン(裙子)は、琉球王国時代に士族女性が礼装の際に着用した琉球独特の衣裳です。 ドゥジン(前を合わせて横で結び、帯を締めないで着る上着)の下に、カカン(下半身に巻くスカートで、全体に細かいプリーツがとられている)を重ねて着用します。
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▲ 写真:左から光子さん(お母様)、真理さん。京都の短大へ出発する前に那覇空港で。
肌で感じた沖縄の「伝統・文化」のレベルの高さ
真理さん 京都の短大を卒業したころ、友人が劇団四季の衣装部の募集が出ていると教えてくれて、応募したのが入社のキッカケです。
入社してからは日々色んなことを学び、吸収して、時にはチームを任されたりもして、忙しくも充実した日々を送っていたので、沖縄に帰ろうとは少しも思っていませんでした(笑)。
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▲ 写真:劇団四季衣装部にて。奥がCATSの衣装。
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▲ 写真:劇団四季衣装部にて。花魁の衣装撮影のために着用。
ですが、様々な仕事に携わる中で、沖縄の染物・織物がトップレベルのものだと気付きました。また、琉球舞踊や組踊(当時は幻の踊りだった)など、たくさんの伝統・文化が世界に通用すると知り、“ 沖縄ってこんなに宝があふれているんだ ”ということを知ってもらいたいと思うようになりました。
それは、以前私が進路に迷い、相談した際に父が言ってくれた、「君が沖縄の染織物を身に着けることは、必ず君の強みになるよ。」という言葉に通ずるのだと思いました。
私は母からこうなりたいという姿を、そして父からは自分の強みとそれを活かす方法を教えてもらいました。
自分の思う道を進みながら、ぶれずに今までやってこれたのも、父と母が私を信じ、時に背中を押し、見守ってくれたからだと思っています。
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▲ 写真:2011年 ODNファッションショーにて。写真左から真理さん・モデルさん・光子さん(お母様)。
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▲ 写真:2020年ご実家にて。写真左から真理さん・元敏(もととし)さん(お父様)・光子さん(お母様)。皆さんがつけているマスクは、コロナ感染が広がる中、“ 楽しくエチケットが守れれば ”との思いで真理さんがデザインしたもの。
「琉装」を通して生まれる新たな繋がり
真理さん 沖縄に帰ってきて、2004年に沖縄琉装苑を立ち上げてからは、沖縄の染物・織物を使った小物や衣類の製造販売を行っております。日常的に取り入れやすく、かつ使いやすいものはなんだろうと、試行錯誤しながら作成しました。
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▲ 写真:真理さんがインタビューされた新聞記事。ご家族みなさんがとても喜んでくれたのだそう。
2018年には琉装体験(レンタル)もスタートさせて、今では県内外、さらには海外からも“ 琉装を体験してみたい ”と、足を運んでいただけるようになりました。
海外からご来店されるお客様の中には、沖縄にルーツを持つ方も多く、
「沖縄の文化を教えてください。」
「祖父母が大切に思っていた沖縄のことを知れて良かった。」と仰ってくださる方もいました。
私も「もしかしたら私のご先祖様とあなたのご先祖様は知り合いだったかもしれませんね。」とお話ししたこともあります。
そうして少しずつではありますが、“ 沖縄の染物・織物ってすごく素敵なんだ!”、“ 沖縄っていいものいっぱいあるんだ!”と、知っていただけるようになってきたのが本当に嬉しいです。
そして、琉装をきっかけに、まだまだ知らない沖縄の歴史や伝統・文化にも、興味を持っていただければ嬉しいです。
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▲ 写真:南米生まれのご夫婦は、お墓参りと親戚にご挨拶のため来沖したのだそう。
「私だけでなく、みんなで一緒に沖縄を盛り上げていきたい!」と、話してくれた真理さん。
明るい笑顔と沖縄の歴史や伝統・文化に対する熱い思いこそが、たくさんの人を引きつけ、まるでカチャーシー(お祝い事の最後に皆でおどる踊り)に誘われるかのように、楽しくみんなを巻き込む力があるのだと思いました。
ぜひ皆さんも「琉装」を通して、沖縄の歴史や伝統・文化を楽しく学んでみませんか?
きっと今まで知らなかった“ 新たな沖縄 ”を知ることで、もっともっと好きが増えていくのではないかと思います。
首里石鹸 中里 ゆきこ
【沖縄琉装苑】
■DATA:〒900-0015 沖縄県那覇市久茂地3丁目6番11 203号
■お電話:098-863-8131
※沖縄琉装苑さんは完全予約制となっております。ご来店の際は事前にご連絡をお願いいたします。
■駐車場:無し
※近隣のコインパーキングをご利用ください。
🌸公式インスタグラムはこちら
🌸公式サイトはこちら
― 取材後記 ―
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沖縄の太陽のようにそこにいるだけで周りをパッと明るくしてくれる真理さんは、お話上手の盛り上げ上手♪琉装を選ぶ際も、「生まれた曜日の色を纏うのもおすすめだよ!」と教えていただきました。(ちなみに私は木曜日生まれだったのですが、大好きなオレンジ色でした^^)ぜひ沖縄琉装苑さんに訪れた際は、真理さんとのゆんたくも楽しんでくださいね~!
首里石鹸 公式YouTubeにて
「晴れ時々、首里」の動画も絶賛配信中です!
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弊社のYouTubeチャンネルでは、お馴染みの甲斐ちゃんが真理さんにインタビュー&琉装体験をさせていただきました!ぜひYoutubeショートも合わせてご視聴いただけますと嬉しいです♪