時折ふと思い出す会話がある。
半年くらい前に乗ったタクシーで、運転手さんと交わした会話だ。
おおらかな雰囲気の、60代くらいの男性だった。お金を貯めるためにこの仕事をしていると言う。子どもも大きいようだし、持ち家もあるようだし、生活に不自由はなさそうだったので「どうしてお金を貯めたいんですか」と聞いた。
するとおじさんは「船を買いたいんだよね」と言う。なるほど、ロマンか。「どうして船が欲しいんですか」と聞くと、釣りがしたいとのこと。実は以前、船を持っていたそうで、なんとマグロも釣れるほど大きな船だったらしい。もう一度、そういう釣りがしたいそうだ。
趣味でマグロを釣るとは驚きだったが、かなり高額の船だったらしい。なのに買って2か月ほどで台風により壊れてしまったらしく、壊れた船を捨てるためにさらに高額の廃棄料を支払ったそうだ。
さらに聞くと、船を持っていた2か月の間に、釣りで大怪我をしたと言う。「ぱっくり割れちゃってさ~」とおじさんは笑った。
あまりに気になり、尋ねた。「どうしてそんな散々な目にあったのに、また買おうと思うんですか?」。高いお金を出したのに数ヶ月で壊れ、さらに廃棄料を支払う羽目になり、大怪我もしている。わたしだったら2度といらない。
だけどおじさんはカラリと笑う。「だって楽しいじゃない」。
思わず小さく拍手した。かっこいいと思った。きっと家族は、こんなお父さんに半ば呆れながらも楽しいだろう。
この会話を思い出すたび、「だって楽しいじゃない」という気持ちひとつで選択してもいいなと思う。
年齢を重ねるごとに慎重になってしまうけれど、そういえば沖縄に移住した理由は「だって楽しいじゃない」的な気持ちひとつだったじゃないか。移住して10年が経ち、ときに大変なことはあるけれど、気持ちひとつで選んだ沖縄移住を後悔したことは一度もないのだ。
ライター
三好優実