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首里散歩 Vol.281 やさしい遺伝

ちょっとした夏休みに、夫の実家に帰省した。

夫の実家は静岡の田舎町にあり、ゆたかな自然の中、義父母がふたりで暮らしている。家には縁側も畑もあり、のどかでゆたかな佇まいはわたしにとって理想の「おじいちゃんおばあちゃんの家」。だから毎年、家族で帰省するのがとても楽しみなのだ。

今年は着いた瞬間、驚いた。家の真ん中に、大きな太鼓があるのだ。さらに本場顔負けのエイサー衣装も用意されている。

息子がエイサーにハマっていると伝えていたため、なんと沖縄から発注してくれていたらしい。沖縄から静岡にきたのに、我が家よりもよっぽど沖縄だった。

一軒家なので、朝から晩まで太鼓を叩いても近所迷惑にならない。息子は飽きずに1日中バチを握り続け、家じゅうに太鼓の音を響かせた。その音をジージ―とバーバーは飽きずに喜び、わたしはその様子がうれしかった。

翌日はジージーに案内され、畑へ。畑でふたたび驚いた。大きな鯉のぼりが空を泳いでいたのだ。ジージ―が朝からせっせと揚げてくれたらしい。

「7月に鯉のぼりかって、近所の人に笑われちゃったよ」と言いながらも、そんなことはお構いなしだという顔で満足そうに笑っている。汗だくだ。息子はバサバサと揺れる鯉のぼりを見て「おお~~」「ともり、ともり~」と興奮した。(息子語録:ともり=鯉のぼり)

さらに畑を進むと、ジージ―が息子に「あれを見てごらん」と声をかける。目の前に大きなスイカがごろんと転がっていた。息子は「スイカマン!」「スイカマン!」と大喜びだ。

7月にこんな大きなスイカができるんだなぁと感心していると、「実はよそで買ったものを仕込んでおきました」と義父が小声で教えてくれた。

静岡であることをあっさりスルーしてエイサー環境をつくり、季節外れの鯉のぼりを揚げ、畑にスイカを偽装する。そんな義父の心意気はなんて温かいんだろうと思いながら、そういえば夫にもこういうところがあるなと思う。

ふと、息子がいつかお父さんになったら、夫に鯉のぼりを揚げてもらおうと思いつく。わたしが揚げたっていい。きっとこういうのは遺伝じゃなくて、うれしい気もちがその人に浸透して受け継がれるのだ。だからわたしも受け継いで、そうやってこの温かさをつないでいければいいな。

ライター
三好優実

★エイサーが登場する過去記事はこちら⇒Vol.268 2歳の誕生日プレゼント

★スイカが登場する過去記事はこちら⇒Vol.277 スイカマンの冒険

★こいのぼりが登場する過去記事はこちら⇒Vol.266 ともりの期間